大韓民国観察記Neo

韓国の、どうでもいい、重箱の隅をつつくブログ。

ソウルのタクシーを怖くするブラックな勤務環境

ソウルでは個人タクシーが目立つ。行灯前方に『개인』と書かれているのですぐにわかる。ただ、韓国の個人タクシーの運転手には、経歴が3〜5年と、日本ならばまだまだ経験が浅い運転手が多数いるので、個人タクシーでも全然道を知らない人が多数いる。そもそも、道に詳しいベテラン個人タクシー運転手には、固定客が少なからずいて、電話で受ける予約を捌くだけで余裕で食っていける人ばかりなので、駅付けしたり、道端で付け待ちする必要は基本的にない。駅付けしたり、道端で付け待ちしている個人タクシーは、まだ固定客のいないビギナーと思って差し支えない。

 

個人タクシーが際立つソウルのタクシー

タクシー制度自体は、ほぼ日本と同じ

韓国にも交通機関として、日本と同じタクシー制度があります。
日本同様、

  • 法人タクシー
  • 個人タクシー

の2本建てです。

法人タクシーは、会社が経営するタクシー
個人タクシーは、個人経営のタクシー

 

厳しいソウルのタクシードライバーの勤務条件が、ソウル特有のタクシー事情の原因

ソウルのタクシードライバーの平均勤続期間は、なんと、1年未満です。
その理由は、いくらやる気があっても続けられないブラックな勤務環境が原因です。
いくらやる気があっても続けられないという点では、似たような日本のタクシー運転手であっても、平均勤続期間は3年以上ですから(といっても、5年、10年続ける人は少ない)、1年未満というのは短かすぎます。

 

運賃は日本の約半分、ノルマは東京のタクシー以上という無謀

法人タクシードライバーの給料は歩合制です。
2日分を1日で働き、勤務日と休日を繰り返す隔日勤務という特殊な勤務形態が多いです。
ということは、1回の勤務で16時間働くことになりますが、実際には、ノルマ達成のため、法定休憩時間をちょろまかし、22時間とか、24時間とか働いていることになります。

初乗り380円(2020年現在)100m10円または30秒10円(2023年現在)という、日本の約半額の運賃ながら、1日の稼ぎのノルマが5万円前後(東京以上)と非常に厳しいです。

法定休憩時間をちょろまかし、サービス残業が横行するのは、ノルマをこなすためには、営業回数を30回、40回やりつつ、長距離客を5回〜10回、回さないと、とてもこなせないことが原因だったりします。
ちんたら走っていては、到底、営業回数をこなすことができません。
渋滞にはまったら、営業回数は、20回を下回るので、目も当てられないことになります。


最低賃金 × 2 = ノルマ達成基準』という摩訶不思議なシステム

1回の営業での全売上のうち、タクシードライバーの取り分は約50%なので、5万円稼ぐと2万5000円が取り分になります。

ところで、韓国の最低賃金は、時給1500円程度なのですが、そうすると、1回の勤務で16時間働くと、最低賃金は2万4000円になります。

普通の法律解釈なら、タクシー運転手の給料は、運転手に1回の勤務で最低賃金2万4000円以上とならなければいけないとなります。

ところが、韓国のタクシー会社は違う。

歩合制を盾に、売上が低ければ低いなりに、最低賃金を下回る給料しか支給されません。
最低賃金以下の給料しか支給しないならば、どのように営業しようと運転手の自由にさせてくれればよいものを、なぜか営業ノルマがある。
1回の勤務で、最低賃金2万4000円×2=4万8000円稼いでくるのは運転手の責任。

 

韓国には『パワハラ』という言葉が存在しない

できない奴は、徹底的に罵倒しても、暴行してもOK。
徹底的に詰めてヨシ。
こういうことがまかりとおっています。

これは、国民皆兵の弊害といってもいいですが、韓国の会社では、隅々にまで、軍隊式統制が浸透しているからです。
そもそも、そういう暴力を取り締まる警察が、軍隊式統制にどっぷり浸かっており、警察内での警官同士の暴行、制裁は当たり前なのですから、民間企業の暴行まで取り締まれる余裕なんてあるわけがない。

そもそも、韓国には、『パワハラ』という言葉がありません
だから、韓国には『パワハラ』が存在しないのです。

 

韓国には『ブラック企業』という言葉が存在しない

もし、タクシーが事故でも起こせば、加害、被害、理由の如何を問わず、修理費用は、問答無用で運転手が全額弁償するのが当たり前。

日本では、会社が事故の修理費用を従業員に請求するのは違法です。

会社がタクシーのナビを交換した、クレジットカード対応にした、交通カード対応にした等、諸々の理由で、給与の歩率はどんどん下がる。

法人タクシードライバーで生活なんてできません。

 



パワハラ』『ブラック』の代償として、公私混同、備品の私物化が黙認される奇妙なバランス感覚

韓国人が、企業の違法行為を「仕方ない」と諦めているわけではありません。

韓国人は非常に感情表現が豊かな民族ですから、日本人ほど忍耐強くはなく、過去にこういうことが原因で、政府が転覆しかねないような大規模デモ、暴動が起きています。

過去には厳しく取り締まったようですが、労働者と経営者の紛争が激化するだけで、労働紛争で倒産する会社が続発するということも、少なからずあった経緯から、企業の違法行為でやられた分は、社員が違法行為でやり返すことは黙認される傾向があります。

現在の韓国人の間では、企業に対する忠誠心もゼロに等しく、日本の企業なら背任行為として当然厳しく処罰される公私混同、備品の私物化などは、取り締まることが不可能なほど当たり前になっています。

タクシードライバーの世界でも、この傾向は例外ではなく、タクシー会社に対する忠誠心はなきに等しい。

勤務中の私用電話、タクシーの私的利用も当たり前。

韓国に負けず劣らずブラックな勤務環境の日本の法人タクシーでもかなり黙認されてはいますが、これがもっとエスカレートしている感じ。

会社のタクシーを自分の自動車のように改造するのも、もはや当たり前。
むしろそれを黙認したほうが、車を大切に扱ってくれるので、タクシー会社も黙認しているというのが実状のよう。

 

タクシードライバーの最終目標は、個人タクシーを開業すること

それでも法人タクシードライバーをやる人がいるのは、個人タクシーを開業する資格を得るのが目的。
個人タクシー営業許可申請をするには、法人タクシーで3年以上、無事故で運行した経歴が必要です。
兵役と同じ年数が設定されているというところがミソ。

「法人タクシー」=「兵役」
という認識のようです。
大過なく兵役を完了して、個人タクシーを開業する資格を得ることが法人タクシードライバーの最終目標です。

3年以上、無事故で運行すること自体、ソウルの交通事情からしたら、恐ろしく難しいことなのですが、これをクリアしたら、タクシー運転手は、法人タクシーはさっさとやめて、個人タクシーを開業します。

個人タクシーになれば、勤務時間は自由自在。
ノルマはなし。
売上は総取り。

一般企業では当たり前の『パワハラ』『ブラック』とは永久にオサラバ。

法人でも事故弁償は自腹弁済が当たり前、機器交換費用も運転手持ちなのですから、個人タクシーをやるデメリットなどありません。
最初は大変かもしれません。
しかし、固定客がついてくれれば、一般企業に勤めるより楽で稼げる仕事だったりします。

実際、ソウルでは、個人タクシーの多さが際立ちます。