北朝鮮に見せつける意図で韓国経済発展のショーウインドウとして建設された繁華街
ソウルの新都心。江南地域の北の外れに、狎鴎亭（アックジョン）という場所が存在します。
名前の由来な朝鮮王朝初期重臣・韓明澮（ハン・ミョンフェ：通称「狎鴎」）が隠棲した漁村であったことからこの名前がつきました。
狎鴎亭
この風景は1970年代以降変わっていません。
なお、このすぐ先にある聖水大橋は、陸の孤島のような交通事情の狎鴎亭に出入りするときに欠かせないルート。落橋したときは、どうやって狎鴎亭に出入りすりゃいいんだよとパニックになるような騒ぎであった。
景福宮から遠い江南の外れにある狎鴎亭は1970年まで京畿道の小さな漁村だった
この辺はもともと、ソウルと漢江を挟んで接する漁村でした。
ここの名産は、韓国の高級ホテルの朝食の定番、ワタリガニの薬味醤油漬（カンジャン・ケジャン：御飯泥棒の異名がつくぐらいうまい）でした。
現在では、ワタリガニの薬味醤油漬は、ここでは生産されていません。隣接する高級住宅街「新沙洞（シンサドン）」「蚕院（チャモン）」というところに、カンジャン・ケジャンの本場と銘打って、専門店が残っています。
狎鴎亭あたりの郷土料理が起源のカンジャンケジャン
ねっとりとしたカニミソのうまみがたまらない。
1970年。江南の外れ、狎鴎亭に日本の多摩ニュータウンもかくやという街が突如造成され、強制的に、まとまった数の富裕層が作られた
1970年。というから、朴正煕独裁政権時代。
この地に強制的に富裕層が作り出されました。
土壁と茅葺き屋根の民家が点在し、牛車が往来する漁村であったこの土地が、突如ソウル市に編入され、土地はことごとく強制買収され、日本の多摩ニュータウンもかくやという街が突如造成されました。
住んでいた農民、漁民は、家財、土地、建物、牛車、木造船の類を一切を政府に強制的に奪われました。
その代わり、多額の保証金と、新しくできたピカピカの住宅の居住権を与えられ、突如、システムキッチンのある豪邸に住む韓国一の富裕層になってしまったのでありました。
それまでの韓国に、まとまった数の富裕層などいなかったのでありましたが、北朝鮮に富裕層の暮らしをアピールすべく、韓国政府によって、強制的に、まとまった数の富裕層が作られてしまったのです。
そこには、そこに住む住人目当ての高級店、デパートなんかが財閥の潤沢な資金力をもって作られました。
いわゆる大韓民国の経済成長のショーウインドウとして、狎鴎亭が再開発されたんですな。
狎鴎亭は、このようにしてできた。
これは高速道路の竣工写真であるが、高速道路の向こうで取り壊しが進んでいる藁葺き屋根の木造住宅に注目いただきたい。
白いよれよれのチマチョゴリを着た人が行き交い、まだ馬車が行き交う朝鮮王朝時代の藁ぶき屋根の集落の横に高速道路を通し、自動車を走らせている。取り壊しが進んでいる藁葺き屋根の木造住宅の跡には高層ビルが建設中である。ついこの間まで洗濯に降りていた川は、コンクリートの護岸工事中であり、足場が残っている。
朴正煕大統領は、科学的に可能であるなら、すべての事業について、潤沢な資金を投入するかわり、このレベルの達成を要求した。
経済力を背景に、政権を正当化するという満州国仕込みの作戦が、金日成に対する宣戦布告だった。
この後、経済的に後れをとった金日成が慢性的苦境に陥いることになった。
狎鴎亭は、韓国人憧れの最先端の文明都市として、観光地化した
それで、韓国中から、いっぺん、最先端の文明都市を見てみたいという観光客が押し寄せ、大賑わい。
地方の土壁と茅葺き屋根の民家に住んでいても、ソウルに行って、狎鴎亭のお店で買ってきたなんて言って見せびらかすと、みんながオーって驚く。
そんな時代の終わり頃を私も目撃しました。
当時、狎鴎亭に行ってみると、24時間人通りの途切れることのないまさに不夜城都市。
現在、不夜城都市で外国人観光客に絶大な人気を誇る東大門市場なんて、当時、喧嘩と酔っぱらいが絶えない暗くて危険な伝統市場という悪名を馳せていましたから、安全に夜遊びできる場所といったら、正直、ココしかなかったわけです。
売っているものは正直、日本ではごく当たり前に売っているものだったので、すごいと思うものはなかったのですが、その賑わいには度肝を抜かれた思い出があります。
アックジョン・ロデオといわれる一角が、アックジョンの中心部。
ここに、韓国一の繁華街があった。
大韓航空機爆破事件の金賢姫容疑者も連れてこられた場所であるという。
政府の肝いりであったがゆえに、現在のソウルでも、さすがにありえないような桁外れな街の繁栄をみて、金賢姫容疑者は、北朝鮮の洗脳が解けたという話は有名である。
朴正煕大統領の独裁政治とは、韓国中を狎鴎亭のようにするということだった
朴正煕大統領が、万事事なかれ主義で、無難なことしか言わない今日の政治家と最も異なる点は、まず狎鴎亭を実際に作ってみせ、韓国中を狎鴎亭のようにすると言ったんですな。
狎鴎亭という見本を見せつけられたら、みんな黙ってしまいますわな。
普通。
もっとも、それでも言いたい放題わがままを言う人がいるのが韓国人。
それで、そんな言いたい放題わがままを言う人は片っ端から逮捕して即刻処刑。
このような札束で国民の顔を引っ叩く強権政治は、『開発独裁』という立派な名前がつきまして、東南アジア諸国で一気に広まるわけですが、韓国の場合、朴正煕大統領の時代よりむしろ全斗煥大統領時代にピークを迎えます。
この『開発独裁』の後遺症は現在の韓国には根強くあって、日本でニュータウン開発なんていうと、成田闘争のような泥沼の開発反対運動が起こるのが常ですが、韓国でニュータウン開発なんていうと、今でも、自分の土地を開発区に引っ掛けるために、政治家に賄賂を送ったり、デモをやったりと、開発催促運動で暴動が起こったりします。闘争の方向性が日本とまるで逆です。
物を買い飽きた富裕層が求める美と健康を売る街、美容整形と医療の街に変化しつつある
この狎鴎亭。
1970年に開発されて、その後、建物や街並みは50年間そのまんま。
当然のことながら、街は老朽化していきます。そのことが原因で、現在急速に衰退し始めています。
その後に、美容整形外科が相次いで入居しています。
というのも、物を買い飽きた大金持ちが求めるのは不老長寿、美と健康だからです。
公的医療保険のない韓国では、美容整形外科と普通の病院の垣根はなく、美容整形外科の増加に伴い、有名個人病院の進出も進んでいます。
いまや、狎鴎亭は病院の街です。
上が反北政策真っ只中の数年前、下が南北融和政策が進んだ現在のアックジョン・ロデオですが、人通りが完全に途絶えてしまっています。南北融和政策に傾く韓国政府の意向を反映してか、経済成長のショーウインドウとしての役割は終えました。こうなると、韓国一高額なテナント家賃は致命的で、ものすごい勢いで店舗の撤退がすすんでいます。その後に、美容整形外科が相次いで入居しています。というのも、物を買い飽きた大金持ちが求めるのは不老長寿、美と健康だからです。公的医療保険のない韓国では、美容整形外科と普通の病院の垣根はなく、美容整形外科の増加に伴い、有名個人病院の進出も進んでいます。いまや、狎鴎亭は病院の街です。
