大韓民国観察記Neo

韓国の、どうでもいい、重箱の隅をつつくブログ。

ソウル地下鉄 1号線

f:id:sirius-B:20191122083240j:plain

地下鉄1号線の車両はほとんどがKorail韓国鉄道公社からの乗り入れ車。最近の電車はみなステンレス張りでこのような韓国顔をしているが、骨格と床下機器は交直車改造した日本の国鉄103系の生き残りという電車が多数残っている。国鉄103系の補修部品は、韓国で容易に作ることができるので、いまだ重宝されている。
京釜線、京仁線、京元線から乗り入れてくるので、塗装もよりどりみどり。
自局車両もわずかながらあるそうだが、めったに見ない。
すべて車上切り替え付きの交直両用車という豪勢な陣容。

 

全長たった7.8kmのソウル地下鉄1号線

神戸高速鉄道のように、都心部相互乗り入れを目的に作られた韓国初の地下鉄

全長約7.8km。
まるで失敗作であるかのように、ソウルの地下鉄の中でも、中途半端かつ断トツ短い距離を走る路線です。

実質、阪神、阪急、山陽電鉄が乗り入れているトンネル会社(第三種鉄道会社)の神戸高速鉄道とよく似ています。

ソウルの地下鉄はすべて右側通行の原則がありますが、1号線だけは、左側通行と、なかなか個性的です。

概ね鐘路の地下を走り、ソウル駅、市庁、鐘路、東大門市場、清凉里と、ソウルの名所、旧跡、観光地、その他諸々を効率良く結ぶ路線です。

 

f:id:sirius-B:20191122081737j:plain
20年くらい前のソウルの地下鉄の路線図。赤いラインが1号線。
鉄道マニアなら、この路線図をみたらすぐにピンとくるでしょう。
1号線がすごく中途半端なんです。

 

f:id:sirius-B:20191122081858j:plain

地下鉄1号線1000系電車
日本の国鉄103系電車の床下機器を車上切り替え付き交直両用車に改装した103系電車高性能バージョン。なんでこんなものを韓国にもってきたかというと、当時の日本の電車で、電力供給に難があった国鉄線でも問題なく走れ、もっとも無難で実績のあった省電力電車が103系だったから。私鉄を中心にこれより高性能な新性能電車は掃いて捨てるほどあったが、いずれも電力喰いで、変電所のブレーカーを上げてしまう変電所キラーばかり。私鉄では、低出力の旧型電車を各停などで走らせ、消費電力調整をしていたという具合だったので、私鉄の新性能電車をもってくることができず、こうするしかなかった。もうとっくに廃止されていると思ったら、無改造の電車が電鉄線末端部で現役なのにはびっくりした。鉄道車両は雑な扱いを受けることの多い韓国にあって、例外的に、大切に扱われているようである。大部分は内外装ともに改造されて、現在も現役。

 

f:id:sirius-B:20191122082451j:plain

日本から輸入した時の写真。1次車は日本からの輸入であったが、増備車は三菱電機などから部品を購入し、韓国で生産された。

 

f:id:sirius-B:20191122082855j:plain

これが現在のソウルの地下鉄。青いラインが1号線。38度線近辺に行く京元線系統、忠清南道牙山あたりまで走る京釜・長項線系統、仁川方面に行く京仁線系統がある。各停と、特急・急行があり、優等列車の追い抜きは、頻繁にある。京元線ー1号線-京釜・長項線、京元線ー1号線-京仁線の2系統あって、各停は、おおむねこの系統どうりに通しで走る感じ。ただし、末端駅付近の閑散区間は、間引き運行となる。特急・急行は京元線ー1号線-京仁線の系統と、清凉里、龍山、九老での折り返しの区間運転となる。特急・急行は総じて運転区間が短く、立錐の余地もないほどの大混雑となる。

 

ソウル地下鉄1号線は駅も電車も大きくて立派

試作的性格の強いソウル地下鉄1号線ですが、地下鉄1号線は、全線標準軌1435mm)車両はすべて堂々、20m4扉車の大型車で、直流1500Vと交流60Hz25000Vの交直両用車という贅沢な内容となっています。

そして、駅も大きくて立派。ソウル市内に地下鉄が縦横に走る今日でも、地下鉄1号線の駅の大きさと立派さにかなう駅はありません。
あまりにも大きくて立派な駅だったので、後に、韓国人は駅構内に地下街を作ってしまったくらいです。

日本の場合、地下鉄1号線というと、建設費を安くするために、小型の車両を使っている試作的性格の強い路線が一般的なのとは非常に対照的です。

実は、ソウル地下鉄1号線。
朴正𤋮大統領の時代、よど号ハイジャック事件解決の見返りに、円借款(無償資金協力・技術協力)を利用して作られたというもの。
日本の地下鉄技師を招聘して建設された、日本製の地下鉄。

とはいえ、韓国はバリバリの軍事政権の時代。
公共事業で手抜き施行などすれば、たちまち逮捕されて、懲罰的拷問にかけられ、死刑になる時代。
しょうもない物を作ってしまったら、命の保証はないという中、派遣された日本人技術者も命懸けでした。

当時、韓国の交通部長官は、韓国軍の高官が、名誉職のような恰好で歴任していた関係上、地下鉄の専門知識はなく、細々とうるさいことを言わなかった半面、貧相なものをこじんまりとつくってしまうと、逆に怒りを買う恐れはありました。

日本からの円借款が、地下鉄を作るには、値切りに値切ったケチくさい額だったうえ、堂々とした立派なものを作らなければ、命の覚束がないとなって、派遣された日本人技術者は途方に暮れました。

ソウル駅は地下鉄1号線沿線。一つ手前の京釜電鉄線南営駅先で、交直切り替え後、ソウル駅の地下ホームに入ってくる。

 

乏しい建設費用を有効活用するため、路線長を短く、相互直通を重視した設計に

当時、大蔵省の考え方は、地下の浅いところに、銀座線のようなこじんまりとした地下鉄を開削工法で作ることを考えていました。
世界の標準的な地下鉄というものはそういうものです。
円借款の額もそうして決められたようなものです。

しかし、それを朴正𤋮政権の韓国でやったら、韓国に派遣された日本人技術者の首どころか、交通部長官の首まで本当に飛びます。
不足していることが明らかな予算で、堂々とした立派な地下鉄を作るには、なんとか合理的な理由を捻り出して、路線長を極力短くするしかありません。

短い路線でも効率的な旅客輸送ができるよう、郊外を走る首都圏電鉄の大型電車を都心に直通させる。
これしかないというわけです。
それで、両端のソウル駅と清凉里駅で首都圏電鉄が乗り入れるようになっています。

地下鉄1号線の路線長の短さをごまかすためには、是が非でも首都圏電鉄の電車を地下鉄1号線に乗り入れさせなければいけません。
しかし、最大の金食い虫、トンネル施工予算の都合上、交流60Hz25000Vを地下鉄区間にひっぱってくることはできませんでした。
直流1500Vが精一杯です。
となると、予算をある程度、車両にまわし、交直両用車にして、ごまかすしかありませんでした。

しかし、これでは、電車整備費用が安く済むという直流電化のメリットが死んでしまいます。

日本人技術者が撤収後、そもそも7.8kmの地下鉄部分だけを何で直流1500Vにしたのかとか、車両を増備しようとしたら、価格が高すぎるとか文句が出るかもしれないけれど、日本人技術者が撤収した後のことは知らないよということになりました。

誰もがやりたくはなかったけれど、ここでも、日本のお家芸、『作り逃げ』が炸裂したわけです。

ただ、やった本人達は、後で責任を追求されても困るので、韓国にいてできる精一杯のことはやって逃げたという。
これがJAPANクオリティー

市庁も1号線沿線。景福宮、徳寿宮へもここから歩いていくと近い。

 

1号線は仁寺洞、タプコル公園など観光地の多く集まる鐘路の地下を東進する。写真は鐘閣駅付近。仁寺洞、タプコル公園は鐘閣駅と鐘路3街駅の間にある。

 

宗廟も1号線沿線。鐘路3街駅が最寄り駅

 

広蔵市場も1号線沿線。鐘路5街駅が最寄り駅

 

東大門市場も1号線沿線。東大門駅が最寄り駅。駅内に韓服市場がある。こちらは朝10時から夕方5時までの営業。

 

清凉里も1号線沿線。古くから中央線、春川線、嶺東線方面のターミナルで東京でいうと上野駅のような位置付け。2000年頃まで、駅前にはソウル市保健所が管理する588番地という韓国で1・2を争う公娼街があり、とんでもない悪名を馳せていた。現在は再開発されているが、清凉里の悪名は韓国人の間では未だ健在。

 

清凉里588番地跡

2000年頃、乗客の苦情が原因で、ソウル地下鉄1号線の名前は一旦廃止された

地下鉄が完成したら、事情を知る日本人技術者は、一目散に日本へ逃げ帰ったわけですが、やることやらずに逃げるKoreaクオリティーに日々頭を悩まされている韓国政府としては大満足だったようです。
というのも、その後のソウルの地下鉄は、すべて直流1500V。これがソウル地下鉄の伝統となっています。
また、ソウルで地下鉄電車というと、交直両用車というのも伝統になりました。

地下鉄を走る電車は、2号線を除き、交直両用車なのですが、直流専用の2号線の電車は、鉄道公社の電鉄線を走れず、流用が効かないので、邪魔者扱い。
車両更新も遅れ気味です。
これは、核心的な電車部品を国内で製造できない韓国特有の事情からくる問題で、部品不足から車両整備が滞りがちな韓国にあって、高額にはなるけれど、交直両用車なら、地下鉄からKTX線路まで走れるので、いかようにも流用が効く交直両用車が安心というわけです。

実際、KTX光明駅まで、KTX線路を地下鉄1号線車両が走っています(後に光明シャトル専用車両として、4両化短縮、直流機器撤去されているが)。

むしろ問題になったのは、1号線が何で左側通行なのかという点。次に作られた2号線では右側通行になりました。

それと、1号線は地下鉄なんだか首都圏電鉄なんだかよくわからないなどといった苦情が2000年頃に新聞に投書されて、大議論になったことがあります。

3号線に乗り入れる一山線とか、4号線に乗り入れる果川線など、地下鉄に乗り入れる首都圏電鉄はたくさんあったのですが、首都圏電鉄の路線名があまりにも知名度が低く、電車が走っていれば、地上を走っていても、高架上を走っていても「地下鉄」と呼ばれていました。

ところが、1号線だけは、地下鉄区間と首都圏電鉄区間を明確に区別していたので、地下鉄の電車が走っているのに「地下鉄」って言ってはだめなの?ということでした。

この件に関しては、首都圏電鉄を管理する韓国鉄道公社が一歩も譲らず、地下鉄1号線も首都圏電鉄と呼んでほしいということになりました。

そこで、もともと赤いラインカラーだった1号線の表示が、首都圏電鉄と同じ青に変更されたそうです。

 

地下鉄の相互乗り入れが増加した近年、地下鉄1号線の名前が復活。地下鉄1号線に乗り入れる電車がすべて地下鉄1号線という具合に

最近の地下鉄路線図では、地下鉄1号線に乗り入れる首都圏電鉄がすべて『1号線』という名前になってしまっています。

これはいかに?というと、電車が走っていれば、地上を走っていても、高架上を走っていても「地下鉄」と言うソウル市民の習慣を変えることはできませんでした。

それで、韓国鉄道公社は「首都圏電鉄」という名称を普及させることをあきらめ、地下鉄1号線に乗り入れる首都圏電鉄がすべて『1号線』(公文書には、『首都圏電鉄1号線』となっているが、『首都圏電鉄2号線』、『首都圏電鉄3号線』はない)となってしまいました。

さて、現在はというと、地下鉄1号線。
建設から40年を経過して、ようやく首都圏電鉄乗り入れの効果がでてきまして、乗降客が爆発的に増加しています。また、駅も電車もつくりが大きくて立派なので、大量の旅客を捌くことができます。
 

f:id:sirius-B:20191122083406p:plain

現在のソウル地下鉄1号線の駅
多くの旅客を捌くことができるといっても、限度というものがある。なお、ソウル地下鉄では早くからホームドアが設置されてきたが、それというのも、この大混雑が理由。ホームドアがないと、ホーム上で脹れ上がった乗客が危険で電車が入線できないというトラブルが頻発したため。