大韓民国観察記Neo

韓国の、どうでもいい、重箱の隅をつつくブログ。

晋州ビビンパプ

晋州ビビンパプ。これは、有名な全州ビビンパプではなく、あまり知られていない晋州ビビンパプの方。ユッケとナムルが載るビビンパプ。ねっとりとしたうまさが絶品。昔ながらの晋州ビビンパプの特徴が際立っている晋州中央市場の第一食堂のもの。器はステンレス。キムチ3品(うち1品は水キムチ)。スープという、韓国料理にはあるまじき品数の少なさ。ビビンパプ自体も、ユッケ、もやしナムル、大根の葉のナムルだけというシンプルな構成。

注意:晋州ビビンパプは、日本では、食品衛生法違反(食肉衛生基準違反)の恐れのある食品であり、日本国内での合法的な提供は非常に困難なため、韓国に行かないと食べることはできません。日本でも食べることができる全州ビビンパプと大きく異なる点です。

 

祭祀料理が起源といわれるビビンパプは、韓国料理の中でもかなり特殊

そもそもビビンパプとは?

韓国ビビンパプといえば、全州ビビンパプが有名です。
単語に分解して、意味をとると、
[地名]+[ビビム(辛い)]+[パプ(ご飯)]
となります。

全部くっつけて発音するとき、2音節目の[ビビム(辛い)]が「ビビン」に変化します。

それと、釜山人は、最後の「プ」の発音をわりとはっきり発音しますが、流行のソウル江南風の発音では省略します。

理由は、発音すると、イモっぽい(田舎臭い)から。
それで、「ビビンパ」というよく聞く名前になります。

ビビンパプの発生の経緯には諸説あるのですが、中に入っている具材が、先祖をまつる祭祀で使うものと同じであることから、祭祀終了後、神人共食の時間があるのですが、先祖に供えた供物を、コチュジャンをかけてつつきまぜて食べたのが起源ではなかったかといわれています。

ビビンパプの器としては、焼いた石製の器が有名ですが、これは比較的新しいもので、全州中央会館がソウル明洞で全州ビビンパプを販売するにあたって、ビビンパプが食事中冷えないようにするために開発したものだそうです。

全州中央会館は、石焼ビビンパプの本家として名高かったのですが、客の70%以上が外国人(韓国人からは石焼ビビンパプが邪道視されていた節がある)ということが仇となり、コロナ禍で閉業してしまいました。

実は、本場全州では、石製の器は邪道で、真鍮(ノックル)の器を使うのが正式。
これが、韓国で執り行われる祭祀で使われる器と同一なのです。

韓国の祭祀で銅合金が使用される理由は、韓国の正統的な伝統は、韓国人の祖である高句麗人の青銅文明をひきずっていることからきています。

韓国人が高句麗人である証拠は、国名に残っています。
高句麗 → 高麗 → KOREA
というわけで、韓国人は高句麗人の末裔なのです。

韓国で執り行われる祭祀の供物は、日本人から見れば、相当派手で、絢爛豪華なのですが、とりわけ、朝鮮王朝関係者の出身地であった全州の祭祀は、ド派手で大規模でした。

ここの祭祀飯が韓国全土に広まったのがビビンパプという料理なのではないかといわれています。

 

こちらは、有名な全州ビビンパプ。華やかさという点で、晋州ビビンパプとは大きな違いがある。全州ビビンパプも、韓国料理の中では、かなり料理の品数が少ない方であるが、この華やかさが万人受けし、韓国料理の代表格にのしあがっていった。本来、全州ビビンパプは、真鍮の器を使わなければならないという厳格なルールがある。しかし、石焼ビビンパプがすごく有名になってしまった結果、本場全州に行かないと、真鍮の器に盛られた本格全州ビビンパプがなかなか食べられない。そういう意味では、本格的な全州ビビンパプも、晋州ビビンパプ同様、なかなか食べられるものではない。

 

日本でもお馴染み、石焼きビビンパプ。韓国でもビビンパプといえば、このスタイルが一般的である。全州中央会館がソウル明洞で全州ビビンパプを販売するにあたって、ビビンパプが食事中冷えないようにするために開発したものだそうで、比較的新しいビビンパプである。ビビンパプの基本を熟知している全州中央会館が提供している分には何ら問題はなかったが、ビビンパプが存在しない地方の食堂で供される紛い物に、「とにかく石の器で焼けばビビンパプ」というレベルの結構ひどいものがあり、これが、韓国人の間での石焼きビビンパプの評価を著しく下げた。

 

韓国のどこにでもビビンパプがあるわけではない

祭祀飯がビビンパプの源流といわれるもう一つの理由に、朝鮮半島でも特徴的な祭祀文化を持つ全州と晋州に独特なビビンパプがあるからです。

晋州の晋州ビビンパプは、韓国の南方、伽耶国家連合(任那)の首都が起源の、韓国でもとりわけ異質な地方都市、晋州に行かないと、基本、食べることのできないビビンパプです。
晋州には、韓国の他の地域とはまったく異質で起源も謎な文化が多数あるのですが、晋州ビビンパプは、その最たるものです。
伽耶国家連合は、東アジアで最初の鉄器文明をもった国家で、現在の韓国人の祖、高句麗人が青銅器を使っていた時代に、鉄器を使っていました。
にもかかわらず、一切文献を後世に残さなかったことから、謎といわれるゆえんです。
ちなみに、晋州ビビンパプは、全州ビビンパプと異なり、真鍮の器を使う決まりはなく、普通のステンレス(鉄合金)の食器で供されます。


ちなみに、北朝鮮の海州にも独特なビビンパプがあります。
海州周辺は、朝鮮王朝の始祖、李成桂と関係が深く、第二次世界大戦終了まで、朝鮮の首都京城をしのぐ産業的、文化的中心地だった場所です。
北朝鮮の領土となったことで、絶望的なまでに衰退したため、今は知る人の少ない場所です。
海州は、ビビンパプより、冷麺の方が非常に有名で、これが海州ビビンパプの伝承途絶の大きな理由です。
海州冷麺には、水冷麺とビビン冷麺がありましたが、比較的近隣にある咸興と、細く弾力があって腰が強い麺の開発にしのぎを削っておりました。
平壌冷麺は、元々、どちらかというと腰のない太い蕎麦だったといいます。
現在、ソウルには、海州冷麺の専門店があります。
海州冷麺を食べたらわかるのですが、一般的な韓国冷麺が、実は海州冷麺そのものです。
話がズレました。

 

 

晋州中央市場の北側の一角にある第一食堂。客席は、店の外と、店の中と2階にある。最近は、韓国人の間でも晋州ビビンパプが知られるようになってきており、全州ビビンパプにインスパイアされた、華やかなインスパイア系晋州ビビンパプを提供する店が増えたが、ここで提供されるビビンパプは昔からの晋州ビビンパプの特徴をよく残している。

 

ビビンパプを頼むと、出てくるのはこれだけ。日本の一品料理の趣き。韓国料理としては非常に異質である。この異質さ、日本料理との類似性がこの料理の真の文化的価値である・・・と言うと、韓国の伽耶任那)研究家が怒るかな。晋州ビビンパプを知らない韓国人を連れていくと、この少ない品数が原因で、間違いなく店とトラブルになるので、韓国人と連れ立っていくときは、晋州ビビンパプを知っている韓国人に限られる。通常、韓国の食堂では1人客お断りの店も多いが、第一食堂では、1人客でも気兼ねなく食事できる。

 

こちらは、インスパイア系晋州ビビンパプ。別皿のナムルを放り込んで、まぜまぜすると、全州ビビンパプのようになる。インスパイア系晋州ビビンパプの登場で、晋州ビビンパプのねっとりとしたうまさが韓国人に広く知られるようになり、これはこれで、ビビンパプのニューウエーブとして、非常にコアなファンがいる。

 

今や幻ともいわれる晋州ビビンパ

今や幻ともいわれる晋州ビビンパプが有名でないのは、その特徴的なレシピが原因であるのはいうまでもありません。
晋州ビビンパプは、ビジュアル的には派手さはありません。
ご飯が見えないぐらい載せられたナムルと卵黄まで派手な全州ビビンパプと比べると、貧相と言いきっても間違いではありません。

実は、晋州ビビンパプ。
日本では違法な食品であるがゆえに、提供することが禁止されています。
違法である理由は、生の牛肉、それも名指しで禁止されているユッケを使用するから。
「ユッケビビンパプ」という名前でならば、ソウルの広蔵市場のユッケ店の一部で供されているので、例外的に、ソウルでも食べることは可能です。

 

正統的な晋州ビビンパプはあまりに貧相なので、ある程度豪華にアレンジして提供する店が多い

ご飯にユッケと緑豆モヤシのナムルを載せて出されるのが正式な晋州ビビンパプ。
一緒についてくるのはスープだけ。

ツキダシ、箸休めが5品、9品出てくるのが普通な韓国の料理屋にあって、これは、実にありえない。
食堂として、営業が成立しないので、現在、彩りとボリウム感を出すため、キャベツのナムル、大根ナムル、ワラビ、白菜ナムルなどが追加されて、比較的デラックスになっています。
夏にはカボチャのナムル、春、秋には、軽くゆでたわけぎとせり、冬には甘さが絶品であるほうれん草とネギが載せられることがあります。
ツキダシ、箸休めがまったくないのもアレなので、キムチぐらいは出してくれる食堂が一般的です。
とはいっても、かなり貧相なのではあるけれど。

そういう、異色の晋州ビビンパプであるのだけれど、1929年からお店で晋州ビビンパプを売り始めた老舗が存在します。
晋州中央市場の北端付近に、他のお店に紛れるように立地している第一食堂。
晋州中央市場には、ソウルの広蔵市場と違って、もともと食堂がありませんが、そのなかで唯一例外、市場メシが食べられる場所が第一食堂。
ここの晋州ビビンパプが元祖にして、現在でも、ダントツに貧相な外観をした晋州ビビンパプを供する店なのであります。
伝統に忠実だと言ってほしいと言われそうですが。

派手なデコレーションがないという晋州ビビンパプの伝統そのままに、ユッケやナムル一つ一つまで吟味された味は絶品です。

成人男子なら、あっというまに2人前を平らげることのできるおいしさです。
全州ビビンパプは、有名になったぶん、食べ飽きられた感がなきにしもあらず。
見た目は派手だったのですが、どうしても味に深みが感じられない、広く、浅くの印象。
これに対して、晋州ビビンパプは、かなり貧相な外観ながら、味の深さについては定評があり、熱狂的なファンを獲得しています。