大韓民国観察記Neo

韓国の、どうでもいい、重箱の隅をつつくブログ。

ハルラボン(漢拏椪)ミステリー

ハルラボン(漢拏椪)をつくったのは、日本の農林水産省特許庁、熊本果実連(JA)の不毛な争いだったという話。
そもそも、農林水産省が農家の意見を無視してデコポンを廃棄したのが事の発端

韓国で柑橘類はたいへんな貴重品

気候の寒冷な韓国にあって、柑橘類は非常に貴重なものであり、栽培できたのは済州島に限られました。朝鮮王朝時代は、柑橘類は国家管理されており、済州島に柑橘類を栽培管理する奴婢が置かれました。
ちなみに、柑橘類を盗み食いした奴婢は、死刑となったほど管理は厳重でした。

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韓国西帰浦市の柑橘博物館の収集品種
正面のキンカンは、世界最小の柑橘
背後が日本製のFAガラス温室なのが気になる。
ガラス温室は1棟5億円クラスの超高級品

現在においても、気候の関係で、韓国本土で柑橘生産を経済的に行うことは難しく、柑橘類の位置づけは、未だに貴重品の域にあります。
済州島の柑橘類の最高峰といったら、ハルラボン(漢拏椪)。
1箱12個入りが1万円相当。
柑橘類が貴重品である韓国だからこそ成り立つ値段。

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韓国で売られているハルラボン 一箱壱万円也
全部手作業でワックスをかけて磨いてある。
韓国国内の需要だけでもかなりのもので、日本に輸出する気はサラサラない。

 

韓国では『ハルラボンの起源は日本』と正しく紹介されている

韓国の辞書によれば、
「ハルラボンの起源は日本であり、1972年に日本で清見とポンカンという品種を交配させて開発した品種で、韓国でみかんとオレンジを交配させて作った品種ではない」
とあります。

済州島での栽培は有名ですが、事業化に先鞭をつけたのは、1987年の全羅南道羅州市での育成事業であり、現在でも全羅南道南部にデコポンの産地は存在します。
済州島へは1990年初頭に導入されました。

特に、1998年からは「デコポン」という日本名そのままの名前でブランド化を果たし、済州島の特産物として有名になりました。

最初に導入したときは、日本名そのままの「デコポン」の名前でブランド化されましたが、後に大人の事情から、
「デベソの部分がまるで漢拏山のピーク形状と似ていることに着目してハルラボンという名前に変更した」
という説明で、ブランド名が急遽変更されたという怪しい歴史もあります。

さて、このハルラボン。
DNA解析の結果を公表し、日本のデコポンを窃盗したものだと言いがかりをつけた日本の政治家のセンセイがいらっしゃいましたが、指摘されるまでもなく、既に、韓国の辞書には、堂々と「デコポンの起源は日本」と書いてあります。
韓国が自信をもって、そう主張する背景には、ハルラボンとデコポンのDNAが100%一致しても、日本のデコポンを窃盗したものだということには絶対にならない深い『闇』が日本側に存在するからです。

 

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デコポンが誕生したのは、日本で、ミカン大暴落事件のあった1972年

戦後、日本でも柑橘類は貴重品でありました。
ただし、これは、日本でも1970年まで、単純に食糧難が続いたせい。
東京みたいにさっさと食糧難を脱した地域があった一方、なかなか食糧難から抜け出せない地域があったようです。

ところが、1970年の米の生産過剰をきっかけに、日本は飽食の時代に突入。
農産物価格の大暴落がいろんな作物で起こり、それほどうまいわけではなかったものの、比較的高価格だったみかんの価格は、真っ先に大暴落しました。

皮のむきやすい温州みかんはまだよいほうで、夏みかん、はっさくともなると、惨憺たる有様。

みかんがそれほどうまいわけではないという問題は、専門家の間では価格暴落以前からいわれていたことで、新しいみかんの開発は昔から重要な問題でした。
清見」が農林水産省果樹試験場口之津支場で育成されたのはそんな時期でした。

 

異次元レベルの香りと味ながら、作りにくく、外見はデコボコの欠陥ミカン

端正な外見で、つやがあり、これぞ日本人のための日本のミカンとして、農水省は大々的に発表しました。しかし、タイミング的に、みかんの大暴落直前だったという問題もあって、農家からの評価はイマイチでした。

そこで、農水省は、「清見」に「ポンカン」を交配して、さらに圧倒的な味と香りのミカンをつくろうとしました。

この方向性は正しかったのでありました。

しかし、できあがったものが、疑問符がいっぱいつくような代物でした。
味と香りは異次元レベルの素晴らしさだったのですが、果皮はデコボコ。
温州みかんと比べて皮は剥きにくい。
おまけに、デベソがある。

これはユズ肌とか、ヘソとか言って、当時、致命的な欠陥と考えられていました。
しかも、温州みかんと比べて作りにくい。

 

農家は、デコポンの将来性を見抜き大絶賛するも・・・

ところが、この欠陥ミカンができたとき、みかんの大暴落が原因で、日本のみかん農家は瀕死の状態。
この欠陥ミカンは、味と香りに関しては異次元レベルのすばらしさでしたから、農家からは是非農林登録してほしいと大絶賛されるほどだったといいます。

温州みかんと比べて作りにくい性質も、この危機をなんとかしようという気概のある、みかん栽培に熟練した優秀なみかん農家からしたら、さほどのことでもなかったということもありました。

実際、日本ではこの後、デコポンのはるか上をいく圧倒的な味と香り、そして圧倒的作り難さ、形の悪さの4拍子揃ったネーブルオレンジが、市場を席巻していくことになります。

ちなみに、ネーブルデコポンより古い品種。
みかん栽培に熟練した優秀なみかん農家からしたら、大事なのは圧倒的な味と香り。
デコポンの作り難さ、見栄えの悪さなど、さほどのことでもなかったわけです。

 

こんなものを世に出しては末代までの恥と農水省は廃棄を決定

しかし、作り難いうえ、こんな不細工な外見のものは日本人の作るべき農産物ではない、こんなものを世に出しては末代までの恥と試験場職員の意見は一致し、農家の反対を押し切り、みかんの大暴落の最中、1971年頃、廃棄となってしまいました。

ハルラボンとデコポンのDNAが100%一致しても、日本のデコポンを窃盗したものだと絶対に言えない深い『闇』とは、農林水産省デコポンを欠陥ミカンとして捨てたという判断ミスのことだったのです。

 

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植物学的にいったら、柑橘類におけるデコポン価値はなきに等しい。
しかし、韓国では柑橘類の代表扱い。
展示場所も、展示室の一番目立つところだったりする。

 

デコポン廃棄という暴挙に、農家は一斉に反旗を翻す

この危機をなんとかしようという気概のある優秀なみかん農家からしたら、どうしてこんな判断がなされたのか理解不能だったのが正直なところ。

こんなくだらないことで、優秀なみかんが葬り去られることに我慢がならなかったということだったらしいです。
この時の遺恨が、農林水産省への徹底的な報復騒動へと発展してしまいます。

 

農家が試験場のゴミからデコポンを回収。増殖して普及させてしまう

ちなみに、ミカンの枝を剪定鋏で切ってきて、大根に刺して家へ持って帰り、高継ぎすれば、増殖は可能。
台木の種類によって、若干、品質は変わってしまいますが、デコポンの場合、そんなもので味や香りが左右されないほど、味と香りは異次元レベルのすばらしいものだったんです。

そして、国が廃棄したゴミであるミカンの木から枝を剪定鋏で切ってきて、自家用に増殖することを禁止する法律は、当時なかったんです。

特に農家の反対を押し切る形で廃棄されたこのミカンは、時期が時期でもあり、欲しがる農家も多く、合法的に持ち出されてしまったということになります。
このできそこないのミカンは、評判が評判を呼び、自家用ミカンとして爆発的に広まっていきました。

 

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晩白柚 世界最大の柑橘(柑橘博物館)
芳香が柑橘類の中でも最強の部類で、この品種改良品がイスラエルスウィーティーとして広く世界中で販売されている。日本では人気のない中晩柑類扱いで、なかなか苦戦している。植物学的にいったら、超重要な柑橘類

もちろん、農家の直販で、関係者向けに販売されていったわけですが、これが特に、熊本の農家にいけば、どこでもいつでも買えるようになってしまい、なし崩し的に転売する者が現れ、しまいには、農協、スーパー等で販売されるようにまでなってしまいました。
特に名前もなかったことから、育成中は「デコボコのポンカン」と呼ばれていましたが、これがなまって「デコポン」と呼ばれるようになりました。

 

育成者の農水省が「デコポン」という名前を使うと直ちに違法という怪しい話

現在は「不知火」という正式な品種名があり、デコポン」という熊本果実連(農協)による登録商標もあります。
インターネットでは
「柑橘関係農協県連合会を経由しない販売について、デコポンの名称の使用は違法である」
なんて、清々と書いてあるようですが、これはたいへんな事件で、よりによって、勝手に増やして売った熊本果実連が農林水産省に無断で商標登録をしてしまったという違法もへったくれもない、なかなか壮絶な話。

以前から品種登録業務を自分の仕事にしたがっていた特許庁が、熊本果実連の申請を受理してしまったことから起こった話。

結果的に、品種登録業務が特許庁で事実上可能であることを世間に知らしめた大事件で、現在でも特許庁では、「品種の登録は、国際的に通用する『商標』登録で。知的財産保護の専門家、特許庁にお任せください」と、デコポンの商標登録の話しを大々的に宣伝しています。
これは、要するに、泥棒というものではないかと、農林水産省が怒ったのも無理なからぬ話で、結局、このことが原因で、種苗法が改正されました。

 

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韓国ではハルラボンは超高級品なので、ハウスで大事に栽培される。
1個1個の実の重さで、木に物理的負担がかからないようにするため、紐で吊ってある。韓国人は万事雑な傾向があるが、こだわりがある部分に対する神経の細やかさは徹底している。韓国人の作った鉄骨ビニールハウスなんだけれども、部品の多くが日本製なのが気になる。

ただ、この時、細かいことまで考えず、その場の勢いで、
「柑橘関係農協県連合会を経由しない販売について、デコポンの名称の使用は違法である」
というルールにしてしまったから、さあたいへん。

想定としては、すでに韓国とかに渡ってしまったデコポンの逆輸入を阻止する目的だったと思われますが、農林水産省の育成地である果樹試験場口之津支場がつくった本家デコポンでも、「デコポン」と名乗ったら違法ということにもなり、これでは農林水産省に対する宣戦布告のようなもの。

その影響で、後付けでの品種登録を画策していた農林水産省が、あえて違う名前の「不知火」という名前で、デコポンを品種登録をせざるをえなくなったと。

しかも、長崎で育成したのに、関係のない熊本果実連の所在地に関する名前を自分からつけてしまったことに農林水産省が後から気づいて、さらに問題がこじれたのは後の話。

世界的にみて、多くの文献で、「デコポン」の育成地が「長崎」ではなく「熊本」と間違って表記される場合が多いのですが、それは、ここらへんに原因があります。

デコポン騒動に心底懲りた農林水産省は、今では、少しでも有望だったら、とにかく農林登録して育成権を保護するという方針に変わっているので、今後韓国がデコポンのように日本の優秀な農業用品種を合法的に収集するなんて、できないでしょう。

 

農水省特許庁の不毛な争いの陰で、デコポン玄界灘を渡る。日本の特許庁の国際登録商標を受けて、ハルラボン(漢拏椪)に改名。日本に輸出しないから、それで問題無し

先にも述べたように、韓国では歴史的に柑橘類は国家管理されており、この世に存在する全ての柑橘は収集の対象としていました。
当然、高い評判のあった九州の自家用ミカンであるこの「デコボコのポンカン」は収集対象となりました。
どうやって収集したかは御想像にお任せします。

当時、枝さえあれば自家用ミカンとして合法的に収集可能だったわけですから、何のトラブルもなく、証拠すら残さず、見事合法的に韓国に持ち込まれることになったということになります。

日本では、『農林水産省特許庁の縄張り争い』 & 『農協 対 農林水産省の宣戦布告問題』にまで発展している「デコポン」です。
特許庁が、国内限定の農林水産省所管の種苗登録との違いを見せつける意図もあって、国際商標登録を勧めたのは当然の成り行きで、その影響で韓国では「デコポン」という名前は使われないことになりました。

さて、韓国に持ち込まれたこの「デコボコのポンカン」は、その異次元レベル味と香りが、貴重品としての柑橘としてふさわしいと高く評価され、増殖されました。

しかも、ネーブルオレンジよりもつくりやすい。

日本では致命的な欠陥とされたユズ肌とデベソ。
これは、他のみかんでも、窒素肥料をたくさんやると、多少はできますが、味は青臭く不味く、香りは薄くなるうえ、デコポンほど盛大にデコボコにはなりません。
要するに、デコポンは、偽物が作れないんです。
韓国ではこの点がとても高く評価されました。

 

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済州島のみかん農家
高級みかん用のハウスだけではなく、普及品生産用の露地畑もある。

実際、1箱12個入りが、1万円相当でソウルの有名デパートで飛ぶように売れたっていうんだから大事件です。
大特価の済州島価格でも8千円相当します。

こうなると、日本から輸入した1棟数億円もする立派な鉄骨づくりの温室で、大事に大事に育ててもやっていけるわけで、済州島に日本製温室が立ち並ぶというすごい光景が誕生しました。

おかげで、済州島には日本語を読み書きできる韓国人が非常に多くいますし、これが1980年代には荒廃に瀕していた済州島を柑橘の大産地として復活させる原動力になりました。

とりあえず、日本は1990年代、デコポン用温室ハウス用品の韓国輸出で半端ではなく大儲けした・・・というのも事実であります。