大韓民国観察記Neo

韓国の、どうでもいい、重箱の隅をつつくブログ。

韓国らしくない、身の程をわきまえた堅実な設計の釜山金海軽電鉄

釜山金海軽電鉄は釜山西部を走る都市交通モデル事業による路線で、終日かなり混雑している

日本のHSSTに対抗して磁気浮上鉄道にせよとの大統領府のごり押しを拒絶し、堅実な設計の中速普通鉄道にしたのが成功の秘訣とか

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釜山-金海軽電鉄 1両13m2両1編成の連接車で、乗合バス程度の小回りがきくため、道路直上に高架軌道が敷設されている。鉄輪式なので、耐久性、運行効率には優れるが、勾配には弱い。

正式名称は釜山-金海軽電鉄
釜山市と、釜山市への通勤・通学需要が高い慶尚南道キョンサンナムド)金海市を結ぶ目的で建設された路線です。
数ある韓国の新交通システムと比較すると、異例ともいえる長距離路線で、釜山市の西方に位置する繁華街、沙上(ササン)から、釜山市の西にある金海市加耶大(カヤデ)間21駅23.5kmを結んでいます。

全線高架で、交差する道路とはすべて立体交差し、路線バスに代わる小回りの効く韓国政府の推進する都市交通モデル事業として、建設されたものです。

本来、金海国際空港アクセス鉄道として計画されたものですが、地域住民による強い要望のもと、延伸に延伸を重ね、現在のような長距離路線になりました。

 

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開通当初の路線図 比較的長距離の路線である。
現在、釜山金海軽電鉄の計画当初の終着駅、大渚駅で釜山地下鉄3号線と連絡している

 

終点の『加耶大』駅の看板は、誤植ではない

なお、加耶大とは私立伽耶大学校のことで、ハングルを漢字書きすると伽耶大なんですが、伽耶大学校の登記上の正式漢字名称が『加』耶大学校となっているため、駅の表示も『加耶大』となっています。
看板の誤植ではなく、登記上の正式名称の漢字が間違っているということは、韓国ではごく普通にあります。

 

長距離路線になったのは、金海市が釜山地下鉄3号線の延伸を拒否したから

当初軽電鉄は空港アクセスに徹し、釜山-金海市間の交通は釜山地下鉄3号線を金海市まで建設する計画でした。

金海市自体が険しい山の谷間に集落が散在する小都市であり、各所で急曲線の通過が必要となるため、フルサイズの地下鉄を建設するとなると、既存市街地から駅を離さざるをえなかったため、既存市街地に乗り入れが可能な軽電鉄(新交通システム)規格で建設してもらいたいという要望が強く、軽電鉄の延長で着工する計画に変更されました。

 

金大中大統領の地元、アシアナ航空系列の錦湖産業コンソーシアムが受注予定だったが、着工遅れの影響で、盧 武鉉大統領の家の近所にある昌原市の現代産業開発コンソーシアムが受注

1992年に韓国初の軽電鉄として政府モデル事業で行うことが議決されたのですが、実際の着工は、地元の熾烈な反対運動の結果遅れに遅れ、2006年2月に着工されました。

というのも、当初は金大中大統領と関係の深いアシアナ航空系列の錦湖産業コンソーシアムが受注し、慶尚道の中心都市、釜山に、全羅道の企業グループの一大拠点を築く予定で、これが全羅道に対する感情的反感の強い釜山での大反対運動を招きました。

結局、混乱は2002年の大統領選挙までもつれこみ、契約が頓挫。
この名残は、空港に隣接する錦湖産業の西釜山流通団地として残っています。

結局、軽電鉄は、盧 武鉉大統領の家の近所、金海市の隣、昌原市を拠点とする現代グループが、現代産業開発コンソーシアムを設立し、事業を引き継ぎ、完成させ、全羅道の企業グループの釜山一大拠点建設を阻止ました。

 

日本のHSSTに対抗して磁気浮上鉄道にせよとの大統領府のごり押しを拒絶し、身の程をわきまえた、堅実な設計の中速普通鉄道にした結果が現在の釜山-金海軽電鉄

新交通システムらしく、路面電車とほぼ同じ大きさの13m級のアルミ製小型車輌を使い、運転士なしの無人自動運行により運営されていますが、新交通システムらしいのは外観だけ。中身は、路面電車。1,435 mm標準軌、最高速度60km、直流750V第三軌条集電方式、ボルスタ(揺れ枕付)台車と、超保守的な設計で、身の程をわきまえた、堅実な設計の中速普通鉄道。

韓国政府は、大宇重工業(1999年倒産)から引き継ぎ政府直営で開発している磁気浮上鉄道(韓国版HSST)にしたかったらしいのですが、現代グループが採算性を理由に(本当は大宇重工業出身の重役が技術的な無謀さを知っていて止めたらしいとの噂も)断固拒否。

平坦な地形で路線の勾配が少ないため、あえてオーソドックスな路面電車の設計としたのでした。

このどこが新交通システムなのかという点について、韓国政府と相当揉めたようで、交渉に時間を要したため、後発のゴムタイヤ新交通システムである釜山地下鉄4号線より完成が遅れました。

車両基地のすぐそばにある現代ロテムの工場で製造する路面電車という実態なので、経営難に陥るケースの多い韓国の新交通システムにあって、比較的順調な経営となっています。

 

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駅舎内 全面花崗岩タイル張りで豪華そのもの。天井板のデザインがチープなところが玉にキズ。コンビニは開業後しばらくしてから登場

 

大統領府の思いつきの筋悪の仕事を多く手掛けている現代グループだけに、韓国政府との付き合い方をよくわかっている

もともと洛東江河口の湿地帯で、地盤が悪いため道路建設が難しい地域を無駄なくとおっているため、競合する路線バスの1/3程度、タクシーの半分程度の時間で目的地に到達でき、運賃はやや高めの感があるものの、利用価値は非常に高い路線です。

さらに、現代建設が沿線の丘陵地帯に大規模高層団地を開発。
需要の掘り起こしまで手ぬかりはありません。

現代グループは、大統領府の思いつきの筋悪の仕事を多く手掛けている会社だけに、韓国政府との付き合い方をよくわかっているのであります。

堅実な施工が功を奏し、軽電鉄は常時乗車率100%以上の混雑路線。
6分間隔の多頻度で運転され、空港から乗っても、座席に座れるということはまずありません。

この順調な経営をみた韓国政府は続々と新交通システムの後発路線を建設していますが、現代グループはよほど釜山-金海軽電鉄で懲りたのでしょう。
後発の新交通システム事業からは手を引いています。

建設当初から現代グループは釜山-金海軽電鉄が大赤字を産む危険性の高い問題事業となることを相当危惧していたらしく、徹底したコスト削減と、韓国政府のメンツをつぶさないため、もとい、新交通システムであると納得させるための派手な仕様をどう両立させるかに悩んだあとが各所に残っています。

 

 

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当初計画では駅のホームは吹き曝し

特筆すべきは建物。
駅舎は全面花崗岩タイル張り、ホームは開放感あふれる総ガラス張り。
パッと見、たいへんデラックスな駅舎です。
しかし実態は、軌道と車両以外の経費削減は徹底しており、駅舎に至っては見かけ倒しのやっつけ仕事だったということが後に判明します。

ソウルと違って、日本同様梅雨がある釜山では、集中豪雨がちょくちょくあり、開通当初はホームにガラス壁すら経費削減で設置していなかったため、ホームが吹き曝しであり、ホームがずぶ濡れになります。

ところが、コンクリート打ちっ放しではなく、全面ツルツルの花崗岩タイル張りですから、少量の水でもタイルの表面を雨水が速い速度で流れていき、雨水が階段に流れ込んで、階下の駅舎が水浸しとなる事故が多発。

そこで、ホームを後付けのアルミサッシのガラス窓で囲み、雨水対策を施していますが、雨水対策はコスト管理上あくまで最低限のものに留められ、現在でも上屋とホームのガラス壁との間に現在も塞ぎきれない隙間があるため、駅舎が水浸しとなることがちょくちょくあります。
花崗岩タイルは濡れるとよく滑ります。

 

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雨水対策後の駅舎 後付けのサッシの形が違う

そして切符。
1980年代までソウルの市内バスで使われていたものと同じ、トークンと呼ばれるプラスチック製コインを自販機で買って乗ります。
トークンには1区間用と、2区間用があります。
空港から釜山側の終点である沙上までは1区間用のトークンを買います。

 

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トークン 下車時に自動改札機にちゃんと返却すること。持ち逃げ禁止。

自動改札機にトークンをタッチして駅に入ります。
トークンを買わずに交通カードをタッチしてもOK。

降りるときは、自動改札機のトークン投入口にトークンを投入すればOK。
交通カードで乗車した場合は、交通カードを再度タッチします。

一見新しそうでいて、旧式で慣れ親しんだシステムが採用されたのは、着工時、鉄道公社で多発したKTX自動改札機動作不能事故の多発に学んだ結果と無関係ではありません。

 

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トークン販売機 日本語対応なので、日本語表示にすればOK